静岡戦国奇譚

森町西部伝承
森町園田の三度栗

ある戦いの折、徳川家康は武田方に敗れてしまいました。逃げる途中で家来たちとも別れ別れになり、園田の地までたどりついた頃には一人になっていました。疲れ果ててふらふらになった家康は、気が付くと一件の農家の前に来ていました。お腹もぺこぺこで、もう一歩も歩くことができず、庭先に座り込んでしまいました。
「やれやれ。ひどい目にあった。何か食べるものはないかな。おい何か食べるものを……。」
家康は、庭先で干しものをしていたおばあさんに声をかけました。。
おばあさんは、気のどくに思いましたが、あいにく家に食べるものが何もありません。ふと縁側のすみに、拾ってきたばかりの生の栗の実があるのに気がつきました。
「今、家には、あいにくとこの栗の実しかありません。これでも少しは腹のたしになるでしょう。よかったらおあがりなさい。」
と言って、その栗の実を差し出しました。おなかのすいていた家康は、たいそう喜んで、皮をむくのももどかしく、むさぼり食べました。
「ああ、うまかった。おかげで命拾いした。礼を言うぞ」
お礼をのべた家康は、食べ残した一つの栗の実を庭先の畑にうめて、
「わしの食べた分だけ実ってくれよ。」
と言いながら、二、三回ふみつけて、去って行きました。
やがて、そこから芽が出て、大きく育った栗の木からは、六月、九月、十一月と、一年のうちに三度花が咲き、実をつけたということです。

出典/「森町ふるさとの民話」森町教育委員会